令和4年11月 日
富山市議会議長
鋪田 博紀 殿
請願者
富山県富山市XXXX
安田 慎 印
(携帯電話 090-XXXX-XXXX)
代理人 弁護士 徳永信一
紹介議員 鋪田 博紀 ㊞
民主主義・立憲主義の基盤である思想・良心の自由、請願権等を守る為の請願
はじめに
現在、マスコミ等で政治家に対し、特定の宗教団体及びその関連団体との関係を断つよう求める論調が繰り返され、令和4年9月には富山市議会において「特定の宗教団体及びその関連団体との関係を一切断つ」という決議がなされました。それぞれのポリシーが尊重されるべき民間団体においてはともかく、全ての市民に対して中立・公平たるべき地方公共団体の機関である市長や市議会が特定の宗教及びその関連団体との関係を遮断することは、地域内の関連団体や信者らの憲法第19条の思想・良心の自由、憲法第20条1項の信教の自由に対する侵害となることはもちろん、憲法第16条で保障されている請願権の侵害となり、憲法第14条1項で保障されている法の下の平等に違反することになる。これらの基本的人権は、いずれも民主主義の根幹と立憲主義の基盤を形成するものであり、地方公共団体の機関である地方議会がこれらを侵害することは、わが国の民主主義と立憲主義を危うくするものである。かかる見地に立ち、富山市議会に対し、次のとおり請願する。
請願項目
富山市議会において、特定の宗教法人及びその関連団体との関係を遮断する内容の宣言・決議がなされ、さらに、今後も、市議会議員を含む公人及び私人に対し、特定の宗教に対する信仰の有無を問うたり、その団体との関係を調査・質問する恐れがある。これらの行為が、信教の自由、請願権等を定める日本国憲法に抵触していないか、かつ、信徒を社会的に排斥し基本的人権を侵すことに加担する行為ではないか、法的根拠と実例に照らして判断頂きたい。
請願理由
1 思想・良心の自由及び信教の自由について
(1)憲法第19条は「思想・良心の自由は、これを侵してはならない。」と定め、同第20条1項前段は「信教の自由は何人に対してもこれを保障する。」としている。これらの権利は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化した国際人権規約(自由権規約)にも定められており、同規約第18条1項において、「すべての人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利には、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に、礼拝、儀式、行事及び教導によってその宗教又は信念を表明する自由を含む。」として思想又は宗教を表明する自由が含まれ、同条4項で「この規約の締結国は、父母及び場合により法定保護者が、自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重する。」ことが定められており、これらの内容は、憲法第19条及び同第20条1項の内容としても保障されている。
(2)思想・良心の自由には、「沈黙の自由」、即ち、思想・良心を告白するよう強制され又は推知されない自由が含まれており、このことは信教の自由における信仰にかかる告白についても同様である(佐藤幸治「日本国憲法論〔第2版〕」245頁、254頁)。
(3)よって、首長や地方議会において特定の宗教団体及びその関連団体との関係を遮断する旨の宣言・決議、地方議員を含む市民の信仰を質問し又は調査することも日本国憲法の定める信教の自由及び思想・良心の自由に違背することは明らかである。
2 請願権について
(1)請願権とは、国や地方公共団体の機関に対し、それぞれの職務にかかわる事項について、苦情や希望を申し立てることのできる権利をいう。憲法第16条は「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規約の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためいかなる差別待遇も受けない。」としてこれを保障し、請願法は、請願の方式や請願書の提出先について定めるとともに、第5条で「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない」と規定している。
(2)請願権は、政策の提言ないし要請を行うこともその内容に含まれ、民情を国政ないし地方行政に反映させる方法として参政権を補充する重要な権利とされている(前掲佐藤420頁)。請願権の主体は、国民に限らず、外国人及び法人もこれを行使できる(請願法第2条参照)。地方公共団体においては、首長、地方議会も請願の対象となる機関であり、地方議会においては地方議員の紹介により請願書を提出することが必要とされている(地方自治法124条)。
(3)よって、特定の宗教団体及びその関連団体との関係を遮断する旨の宣言・決議は、請願権の主体たる法人及び信徒との関係や接触も遮断するものであり、その請願権を侵害するものであることは明らかである。
3 法の下の平等について
(1)国際人権規約(自由権規約)は第2条で「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別も」されない事を約束し、その趣旨を踏まえた憲法第14条1項は「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」としている。
(2)地方議会等の地方公共団体の機関が、特定の宗教団体及びその関連団体との関係を遮断することで、特定の宗教団体の信仰、世界観、儀式若しくは宗教活動を理由に、思想・良心の自由、信教の自由、請願権について規制し、差別的取り扱いをすることが「法の下の平等」に違背するものであることは明らかである。
4 まとめ
よって、首長及び地方議会において特定の宗教団体及びその関連団体との関係を遮断する宣言・決議を行い、或いは、地方議会や地方公共団体において、特定の宗教団体の信仰を質問ないし調査することは、一般市民である信者らの思想・良心の自由と信教の自由を侵害し、信者らの請願権を否定するものであり、宗教を理由とする差別であり、法の下の平等に違背することは明らかであると考える。
以上